太極拳日記 8 練習備忘録 (2)

かなり寝不足で見学だけにしておこうと出かけた。

待合のホールでも眠りそうで、やってきた兄弟子たちも顔色がわるいよと言っていた。

なのに練習が始まるとピタッと身体のキレが蘇り、不調はどこかに行ってしまった。

・纏絲勁(てんしけい) 

陳式太極拳のみならず、すべての太極拳の基本はこの纏絲勁だそうで、これがちゃんとやれれば、極端に言うと型なんか要らんとまで先生は言っている。

いつまでたっても上手くやれないのだが、昨日の寝不足のときに限ってはお褒めの言葉をいただいた。初めてのことだ。

「うん、今日はいいよ。その練習を続けなさい。」

僕はこの纏絲勁の練習にアニメの考えを取り入れたのだ。

アニメというか、アニメーション(動画)である。

アニメは全ての動きをコマ割りにして、パラパラ漫画のように描いてそれを1秒間何枚で連続再生するから、絵が動いて見える。

纏絲勁は全ての動作に対して、どこで停まっても体内の力のバランスが整っていなくてはならない。

たとえ右手が6時の方角にあってもだ。(真下の位置にあるってこと)

ならば、この円運動をすべてコマ送りにして、その一つ一つのポーズにバランスが取れているかをチェックすればいい。

僕は円運動を細かく細かく区切って、一つ一つをチェックしていった。

こうなると円一周にとても長い時間がかかる。だから太極拳の動きはスローなのだと悟った。

先生は「体の芯を右から左に載せようとするとき、どうしてもその気持ちが表れて左ひざに負担がかかってるね。こういうときでも各部の動きがすべて正合(せいごう)であることが必要なんです」と言った。

「しかし正合を求めるあまり、各部の動きが小さくなり、円や螺旋が小さくなってはダメ。まだまだ大胆に、バランスが崩れてもいいから、動きを大きくすることも大事」

この大きな円が、大きな発勁を生むわけだ。

・踏み込み

先生は100m走のときのクラウチングスタートの一歩目を意識すること、と言った。

溜めていた瞬発力を爆発させる一歩。

しかしその一歩に力みがあれば、二歩目が出にくくなる。

加速度を持った素早い踏み込みと、つま先の着地からかかとの着地まで起きる重心の下がり。

それを体内で円運動によって横方向の発勁に変える。

そのさい四肢の緊張があってはエネルギーの伝達に失敗する。

右足で踏み込むのなら、

つま先→かかと→発生した自重が地面に伝わり、それが垂直抗力によって脚に伝達→右胸襟から左胸襟→左鼠径部→丹田→右腕部→右肘→右手→相手  という順路を形成する。

もちろん、その循環をサポートする左半身各部の協調があって、「右脚踏み込み右押し出し」という一つの技が完成する。

ここで、右足の踏み込みの前に、身体の中の溜めを作ると、より発生した発力が大きくなり、体内循環の際に重心を一旦左半身まで移動させれば、さらに破壊力を増す。

でも相手との距離、踏み込みの深さ、相手の体格なんかが全て絡むので、定型がない。

太極拳は全て定型がないのだから、一つの型として覚えても、覚えこんでも仕方ない。

前回の日記で登場した千葉の僧は、実は大変に高名な方で、いわゆる日本における陳式太極拳の第一人者だそうだ。

先生はその僧の正統な弟子になる。

僕も先生とその僧の名に恥じぬように、研鑽を積まないといけない。